対岸は見えない
2024 第1回BUG Art Award ファイナリスト展、BUG
『赤色灯』『はやいぬ』『蟻には大きな角砂糖』『higashi-fussa』『スリーパー』『両手に2つまで』『シグナル・閃光』『タンク』『make up-shadow』
上から4枚の写真 撮影:冨田亮平
『はやいぬ』
-1鏡、映像 -2,3,4キャンバス、油絵具
取り込んだ洗濯物や温まった毛の生えた動物に顔を埋める時の匂い。温度差から自身の顔が冷えていたと気がつくこと。犬や猫を可愛がっている姿を見ること。
急行列車は各駅停車の駅で待っている乗客を無視して目的地に走る。電車だけでなく自動車や飛行機などの高速な乗り物は、速度が遅くなる機会に乗り込んだり、他の乗り物と同時に走り続けるためのスピードを維持する必要がある。
散歩中の犬が全速力でこちらに走ってくる。困惑しながら受け止め方を考えていた私を尻目に、私の奥にいた飼い主に向かって駆け抜けていった。
『はやいぬ』は高速で動くが、毛の厚みがたっぷりあるため稼働中に触っても突き指しない。回転する『はやいぬ』に両手を広げて顔を埋め、その映像を金縁の鏡に映す。
自分とは違うものが全力で稼働するのをこちら側で見ている幸せ。その全力さや自分との関係のなさが笑える。
『higashi-fussa』
画用紙、色鉛筆
埼玉のアトリエで図面を広げていた日の帰り道、電車内の電光掲示板に目をやると次は東福生駅に停まるらしい。
”fussa”の”ss”を見て、ローマ字にすると長くなるものなと一瞬納得したが、”fussa”の中にあったのは省略記号の波線ではなく、単なる2連続の"S"だった。
アルファベットの連続を省略記号と空目した=文字列が省略されている場面と認識できてしまったことで、文字列では省略記号が使えないものであるというルールを逆説的に思い出すこと。
長方形に切った黒い画用紙にhigashi-fussaと書き加える。
『タンク』
ビーチボール片を半田付け
「タンクローリー」は運転席と、「蟻」は頭部や胸部と、それぞれにタンクを連結しており、そこに液体を貯めて走らせる。どちらのタンクもラグビーボールを斜めにしたような球体で、中に空間がある。
タンクローリーを目の前にすると、運ぶ液体の堆積が自分と比較にならないほど大きいことがわかる。大きなタンクの溶接の跡はビーチボールの繋ぎ目と似ている。