ななめに立つ
2022
『クリームろうそく』『パース』『光り輝くねこじゃらし』『幸水梨』『恐竜を襲うウニ』『コマ』
上から4枚の写真 撮影:柳場大
『パース』
番線、ノリ付き綿布、歯間フロス、フェアリーライト
理科の教科書で見た、視野についての図が腑に落ちなかった。それは目の位置を頂点とした透明な円錐形のような形だった。
その円錐の中にいちいち対象物を入れなければ何かを捉えられないような、そして目からビームを発しているような感じがして、日頃行っているスムーズな認知とかけ離れている感じがした。
大学でお盆のような作品を両手を伸ばして持った時、腕と私の視線とお盆はあの視野の図を形作っていた。
『光輝くねこじゃらし』
鉄、紙、蛍光塗料
鍛金のブローチの一つ一つの打撃の跡が、内側の形を綿で膨らましたように見えた。
道端に生えているエノコログサ、通称ねこじゃらしは、太陽の光にその穂を透かすと実のような部分だけ光を遮って、株の中からポコポコと見えてくる。
切り抜いた鉄板の中心部に鉄を盛り、端は叩いて薄くした。同じ形を2対作り、間に蛍光塗料を塗った紙を挟んだ。
『幸水梨』
磁器土、アクリル絵の具、写真、アクリル板
普段買わない幸水という品種の梨を頂いたので切り分けると、みずみずしい果肉が台所に差し込む光に透けて眩しかった。セロファンに包まれている駄菓子のラムネが持つ、コーンスターチらしい蛍光色の白にも似ている。
それらの発光するような白さに磁器の艶やかな白い光沢を思い浮かべ、磁器土を焼成しようと準備を進めた。しかし焼成前の乾いた土の表面を見て、ツルッとした光沢ではなく、滑らかな表面が起こす乱反射を探していたことがわかった。
『恐竜を襲うウニ』
アクリルケース、セメント、小麦粉、ガーゼ、送電線の地図記号、木片、アクリル片
小麦粉を入れたガーゼの巾着を落下させると、落下面の周りに噛み跡のような形で小麦粉が周囲に漏れ出る。海にいるウニは底面にある口でコンブに齧り付く。
彫刻学科教授 三沢厚彦
綿のガーゼで巾着をつくった。そこに小麦粉を入れてアクリル板の上に落としてみる。その痕跡がウニの口のようだった、それと鉄塔が。
車の車窓から垂直のビルがいくつも見える、車の動きに連動し重なったり、小さくも見える。大きなビルも車窓に収まってしまう。
パンケーキをどんどん重ねていくと倒れてしまう、傾き始めたところで素早くほうきでつっかえ棒をするが、蝋燭の蝋がほうきの柄を伝って流れてきた。魔法は使わないと決めてしまったから。
向井の語る作品の話しは、おおよそこんな感じに進行していく。作品づくりもそれらと連動し、様々な思惑や思索が任意に交換され、時には組み合わされる。日常の些細な発見や小さな出来事が集積されながらかたちづくられていく。それらは向井にとって日常を記録するという行為かもしれない。ここでは「些細な」「弱さ」「小ささ」という事が興味深くもあり、実に厄介なのだ。それらを認識し、転換し、定着させるためには観測と選択は怠ってはならない。さて、高性能な虫眼鏡を用意することにしよう。そして、凝視する。自ずと素材やつくり方が見えてくるまで待つことにする。
「小さな前衛」も膨大な月日を経て、さらなるフェーズに進化しているのだ。
そうだ、映画「マーズ・アタック!」の地球を侵略する異星人の弱点とそれを発見した場面の話しをするのを忘れていた。
日常的な些細な事物の中に圧倒的な力が内在していることに気づくのだろう。